徳島にIT企業104社がある、という事実を知っていますか?
「徳島はデジタル化が遅れている」——地元の経営者と話すと、こうした言葉をよく耳にします。しかし実態は少し違います。
総務省の「情報通信白書」や経済産業省の企業統計によれば、徳島県内にはソフトウェア・情報処理・インターネット関連を含むIT系事業者が100社を超えるレベルで集積しています。さらに、徳島県は早くから光ブロードバンド整備に積極的な県として全国的に注目されてきた地域です。インフラもプレイヤーも、決して不足しているわけではありません。
それでも、地元の中小企業がITやAIを「使いこなしている」とは言い難い現状があります。なぜこのギャップが生まれるのか。今回はその構造的な理由を掘り下げ、地方経営者が取るべき「逆転シナリオ」を考えてみます。
数字で見る「活用されていない」実態
中小企業庁が公表している「中小企業白書」(2023年版)によると、DXに取り組んでいると回答した中小企業は全国平均でも約3割にとどまります。さらに地方圏ではその割合がより低い傾向にあることが示されています。
徳島県単独の詳細な統計は限られますが、四国経済産業局が公表するデータでは、四国4県における中小企業のIT投資額・デジタル活用度は、関東・近畿と比較して依然として低い水準にあります。「ツールを導入した」レベルを「活用」と定義すれば数字は上がりますが、業務プロセスや意思決定にAI・デジタルが組み込まれているかという観点では、差は歴然です。
一方で、IT企業側の現場担当者に話を聞くと「提案に行っても『うちには関係ない』と断られる」「一度入れてもらっても使われない」という声が絶えません。需要と供給が同じ地域に存在しながら、接続されていない——これが徳島IT企業活用の本質的な課題です。
活かせていない「本当の理由」3つ
① 「IT企業=大企業向け」という思い込み
地元中小企業の経営者の多くは、IT企業を「自分たちとは違う世界の会社」として認識しています。「うちみたいな小さい会社に提案してくれるわけがない」「費用が高いはず」という先入観が、最初の相談すら妨げています。
実際には、徳島に拠点を置くIT企業の多くは中小企業向けのパッケージや伴走型支援を提供しており、初期費用を抑えたスモールスタートも可能です。しかし、この情報が経営者に届いていない。情報の非対称性が、同じ地域にいながら「遠い存在」を作り出しています。
② 「発注者」としての経験不足
DXやAI導入で成果を出している中小企業に共通しているのは、経営者自身が「何をしたいか」を言語化できていることです。ベンダーに丸投げするのではなく、自社の課題を整理し、要件を伝え、成果を検証するというプロセスを自ら回せるかどうか。
しかし、多くの地方中小企業ではITへの発注経験自体が少なく、「どう頼めばいいかわからない」状態が続いています。これは能力の問題ではなく、経験値の問題です。地元にIT企業がいくらあっても、発注側のリテラシーが育っていなければ、良い関係は生まれません。
③ 「成功事例の見えにくさ」という構造問題
東京や大阪であれば、同業他社がDXで成果を出した事例を耳にする機会が多く、「うちもやらなければ」という危機感が自然に生まれます。ところが地方では、成功事例が外に出にくい傾向があります。競合に知られたくない、目立ちたくない、という地域特有の空気感が、横展開を妨げています。
IT企業側も、守秘義務や関係性への配慮からケーススタディを積極的に公開しにくい。結果として「誰もやっていないから様子見」というスタンスが続き、集積しているリソースが眠り続けます。
逆転シナリオ:この構造を「強み」に変える発想
ここまで課題を述べてきましたが、視点を変えれば、これは大きなチャンスでもあります。
小さな市場だからこそ、つながりやすい
東京では、優れたAIスタートアップにアクセスするだけでも人脈と時間が必要です。しかし徳島では、少し足を動かせばIT企業の担当者と直接話せます。商工会議所や業界団体のイベントで顔を合わせる距離感は、地方ならではの強みです。
経済産業省が推進する「DX推進ガイドライン」でも、外部リソースとの連携を早期から行うことが中小企業のDX成功要因として挙げられています。地方の「近さ」は、この連携コストを劇的に下げる可能性を持っています。
「最初の顧客」になることの価値
地元IT企業にとっても、地域の中小企業は「事例が作りやすいパートナー」です。互いに顔が見える関係の中で、スモールスタートを許容し、フィードバックを丁寧に返せる中小企業は、IT企業にとって非常に価値のある存在です。
「試してもいい」というスタンスで一歩踏み出した経営者が、地元IT企業の「看板事例」になり、それが他の中小企業の背中を押す——この連鎖が生まれると、地域全体のDX速度が一気に上がります。最初に動く経営者が、最も大きなリターンを得ます。
AIをいきなり「全社導入」しない
失敗するDX・AI導入の典型パターンは「全社一斉導入」です。特に中小企業では、一つの業務・一つのプロセスにフォーカスした小さな実験から始めることが成功の鍵になります。
たとえば、見積書の作成補助にChatGPTを使う、SNS投稿文の下書きを生成AIに任せる、売上データの集計をExcelマクロ+AIで自動化する——こうした「小さな勝ち」を積み重ねることで、組織の抵抗感が薄れ、IT企業との関係も深まっていきます。
金融の現場から見えること
私は金融業界で働きながらこのブログを書いています。融資の現場や経営相談の場で多くの中小企業経営者と接する中で感じるのは、「ITやAIに興味はある、でも何から始めればいいかわからない」という声の多さです。
その「わからない」の多くは、情報不足と経験不足から来ています。そして情報も経験も、地域にすでにあるリソースを使えば解消できるものが大半です。徳島に104社以上のIT企業が存在するという事実は、決して「他人事」ではありません。それは地元経営者にとっての、使われていない資産です。
まとめ:逆転のカギは「経営者が動くこと」
- 徳島にはIT企業が100社超集積しているが、地元中小企業との接続が弱い
- 原因は技術でも費用でもなく、思い込み・経験不足・情報の非対称性
- 地方の「近さ」は連携コストを下げる強みになり得る
- 小さな実験から始める姿勢が、地域全体のDXを動かす
- 最初に動いた経営者が、最大の恩恵を受ける
徳島IT企業活用の逆転シナリオは、すでにそこにある資産を「使う決断をする」経営者が現れることで始まります。インフラは整っている。プレイヤーもいる。あとは、あなたが動くかどうかです。